若者にも多い
「椎間板ヘルニア」とは
背骨は、椎骨という骨がたくさん並んで構成されています。そして椎骨と椎骨のあいだで、クッションの役割を果たしている軟骨を「椎間板」と呼びます。
椎間板ヘルニアとは、この椎間板が飛び出してしまう疾患です。飛び出した椎間板が付近の神経を圧迫することで、腰、足などに痛み・しびれといった症状を引き起こします。
年齢を重ねた人が発症するイメージがあるかもしれませんが、若い方にも起こり得るものです。
なお椎間板ヘルニアは、椎間板の飛び出しが起こった部位に応じて、頚椎椎間板ヘルニア、胸椎椎間板ヘルニア、腰椎椎間板ヘルニアに分けられます。このページでは主に、頻度の高い頚椎椎間板ヘルニアと、腰椎椎間板ヘルニアについて言及していきます。
椎間板ヘルニアの原因
椎間板ヘルニアの原因は、姿勢や動作によって椎間板に負荷がかかることにあります。座る・立ったまま前かがみになるといった日常的な動作でも、体重の2.5倍の負荷がかかるとされており、椎間板ヘルニアはスポーツをする人だけでなく、誰にでも起こり得る疾患と言えます。
その他、加齢、遺伝も、椎間板ヘルニアの発症へと影響します。
頚椎椎間板ヘルニアに
なりやすい人は?
- 猫背など普段から姿勢の悪い人
- 激しいスポーツをする人、していた人
- 30歳以上の人
- 椎間板ヘルニアの家族歴がある人
- 外傷(転倒、転落など)
- 重労働に就く人
- 過度なストレスを抱えている人
- 喫煙している人
腰椎椎間板ヘルニアに
なりやすい人は?
- 猫背など普段から姿勢の悪い人
- 激しいスポーツをする人、していた人
- 20歳以上の人
- 椎間板ヘルニアの家族歴がある人
- 重労働に就く人
- 過度なストレスを抱えている人
- 喫煙している人
椎間板ヘルニアの症状
頚椎椎間板ヘルニアの症状
- 首~肩甲骨にかけての痛み、こり
- 手足や手指のしびれ、感覚障害、可動域の制限
- 上肢の筋力低下
- 細かい作業の困難
- 歩きづらさ
腰椎椎間板ヘルニアの症状
- 臀部~大腿~下肢の痛み(坐骨神経痛)
- 下肢のしびれ
- 腰痛、臀部の痛み
- 下肢の筋力低下、足指やつま先に力が入らない
- 尿意が分からない、肛門の感覚低下、失禁
椎間板ヘルニアの
検査と診断
頚椎椎間板ヘルニアの
検査と診断
診察では、上肢の感覚異常や筋力低下の有無を調べます。
その上で、頚椎のレントゲン検査を行い、椎骨の状態や椎骨同士の間隔などを調べます。
神経症状がある場合には、神経の圧迫の程度を調べるために、MRI検査を行います。
腰椎椎間板ヘルニアの
検査と診断
診察では、痛みの場所や程度、下肢の感覚異常や筋力低下の有無を調べます。
その上で、腰椎のレントゲン検査を行い、椎骨の状態や椎骨同士の間隔、骨折の有無などを調べます。
神経症状がある場合には、MRI検査を行い神経の圧迫の程度を調べます。
椎間板ヘルニアの治療
保存療法
神経ブロック
局所麻酔やステロイドを神経の近くに注射し、痛みを和らげます。注射部位によっては、入院が必要になることもあります。
薬物療法
非ステロイド系消炎鎮痛剤、筋弛緩薬を用いて痛みを和らげます。
理学療法
痛みが落ち着いてからは、筋力・柔軟性を改善する体操、装置を用いた牽引などを行います。
手術療法
保存療法で症状が改善しない場合、麻痺が残る場合、日常生活への支障が大きい場合などには、手術を検討します。
後方椎間板切除術
背中側からの切開を加え、ヘルニアを切除する手術です。
椎間固定術
金属などで骨を固定する術式です。後方椎間板切除術と併用することが多くなります。
経皮的椎間板療法
背中の切開なしでヘルニアを切除するという、新しい手術です。
ただし、すべての椎間板ヘルニアが適応となるわけではありません。
椎間板ヘルニアは
自然治癒する?
実は椎間板ヘルニアは、自然治癒することがあります。飛び出した椎間板が、時間の経過によって吸収され、ヘルニアが解消されるケースです。
一方で、3カ月以上症状が続くようなケースでは、すでにヘルニアが神経を圧迫して炎症を起こしている可能性が高く、自然治癒は期待できません。
椎間板ヘルニアは
歩いた方がいい?
早く治す運動
ウォーキング
「毎日、30分で3km」を目標にしたウォーキングをするのが有効です(最初は無理をせず、ご自身のペースで結構です)。背骨のバランスが整うだけでなく、持久力アップ、心肺機能強化につながります。
なお、アスファルトやコンクリートなどの硬い道ではなく、土の上を歩くことで、背骨(や膝や足の裏)にかかる負担を軽減することができます。同様の理由で、シューズも、ウォーキング用・ジョギング用のものを選びましょう。
水泳
水泳では浮力が働くため、身体に無理な力をかけることなく、筋力だけでなく、心肺機能を高める効果が期待できます。「週に2~3回、20~30分」の水泳が理想的です。腰に痛みがある場合でも、取り組みやすい運動です。
全身をバランスよく鍛える泳法として、クロールや背泳ぎがおすすめです。
自転車
ペダルをこぐ動作は、お尻・下半身の筋力を強化するとともに、骨盤の角度の矯正が期待できます。ペダルをこぐ際に膝が伸びきらないようにサドルの高さを調整するのがポイントです。
転倒などが心配な場合は、スポーツジム等のバイクがおすすめです。外で自転車に乗る場合は、必ずヘルメットを着用しましょう。
ストレッチ
自宅などで簡単に取り組めるのがストレッチです。運動経験の少ない人は、まずはストレッチから始めましょう。
反動をつけたり急激に動かしたりしないこと、自然な呼吸をしながら取り組むことがポイントです。
椎間板ヘルニアで
やってはいけないこと
頚椎椎間板ヘルニア
身体を酷使する運動・
無酸素運動
椎間板ヘルニアを治すにせよ予防するにせよ、身体を酷使する運動は背骨をはじめとする全身に大きな負担がかかることになります。ヘルニアが悪化したり、発症の原因となることもあるため、避けるようにしてください。また「辛さ」を感じてしまうと、どうしても継続が難しくなります。
無酸素運動ではなく、少し息があがる程度の、楽しみながら続けられる有酸素運動を選びましょう。
コンタクトスポーツ・
格闘技
ラグビーやアメフトなどのコンタクトスポーツ、格闘技は、試合形式となれば必ず人・物との強い接触があり、背骨がダメージを負います。
症状が悪化するばかりか、治療が困難になることもあるため、厳禁です。
猫背・正しくない座り方
猫背、椅子に浅く座り背もたれにもたれるといった姿勢は、頚椎に慢性的に負担をかけることになります。
姿勢において大切なのは、常に全身を意識するということです。首だけを正しい角度にしよう、としてもできないのが、私たちの身体の仕組みです。
また、適度な運動によって全身の筋力・柔軟性を維持するということも重要です。
転倒
転倒には、頚椎椎間板ヘルニアを一気に悪化させる危険があります。
転倒を防ぐためには、ウォーキングなどで筋力やバランス感覚を鍛える、適切なシューズを選ぶ、無理な運動をしないといったことが大切になります。また場合によっては、杖を使う、家の中に手すりをつけるといったことも必要になります
通勤や通学でバイク・自転車を使っている人は、通勤方法を変えるといったことも検討する必要があります。
腰椎椎間板ヘルニア
身体を酷使する運動・
無酸素運動、
コンタクトスポーツ・
格闘技
頚椎椎間板ヘルニアと同じように、腰椎にダメージを与える可能性のあるこれらの運動は控えるようにしましょう。
運動の選び方が分からない、したい運動があるが不安という場合には、当院の医師にお気軽にお尋ねください。
過度・長期の安静
腰椎椎間板ヘルニアの治療において、基本的に安静は推奨されていません。痛みやしびれからつい「じっとしていよう」と考えてしまうようですが、筋力・柔軟性が低下するために、ますます動けなくなる・症状が出やすくなるといった結果を招きます。
痛みのない範囲で、あるいは軽い範囲で、積極的に運動を行うことが大切です。
※痛みの出始めに数日の安静を指示するといったこともあります。
正しくない姿勢で物を
持つ・重い物を持つ
立ったまま足元の物を持つ、前傾姿勢で物を持つといった行為は、腰椎に意外に大きな負担をかけます。たとえば落としたスマホを拾うという時でも、必ず腰を落としてから手を伸ばすようにしてください。
両手が必要な重さのある物を持つ時には、肘を伸ばし、やや腰を反らすようにするのがポイントです。
またできれば、そもそも重い物を持たないというのが理想的です。まわりの人に手伝ってもらう、台車などの道具を使うといったことも考えましょう。